この記事では自社の経理業務に課題を感じている方に向けて、BPOサービスを利用する際のメリットやデメリット、BPOサービス導入のステップや業者選びのポイントを解説します。
人手不足が深刻化する中で、複雑な経理業務をこなせる人材の希少性が高まっています。一方で働き方改革の影響により、業務時間の削減は企業にとって重要な課題です。これらの解決に注目されているのが、経理業務のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)です。BPOサービスに経理業務を委託することで、工数がかかる業務を経理のプロに任せられ、経理担当者の負担を減らせるでしょう。
この記事では経理業務でBPOサービスを利用する際のメリットやデメリット、BPOサービス導入のステップや業者選びのポイントを解説します。
目次
1. そもそもBPOとは
BPOとは、自社が従来行っていた業務プロセスの一部を、外部の専門業者に一括して委託することです。Business Process Outsourcing(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の頭文字を取った略称であり、「ビーピーオー」と読みます。
BPOは主に、経理や財務といった企業の業績に直接かかわらない「間接業務」で導入される方法です。企業は間接業務にBPOを導入することで、より重要性が高いコア業務に注力でき、業績向上につなげられます。
BPOとアウトソーシングの違い
企業の業務を外部に委託する方法は、BPOのほかにアウトソーシングがあります。アウトソーシングとは、自社業務の一部を切り出して外部に委託する方法です。
BPOとアウトソーシングの違いは明確ではありません。「アウトソーシングサービス」の中にBPOサービスが含まれるケースもあります。
両者の違いをあえて挙げるとすれば、業務を委託する範囲や期間の違いと言えるでしょう。
アウトソーシングでどのような業務を委託するかは、明確に決まっていません。委託期間についても、継続的に委託する場合もあれば、単発で委託する場合もあることが特徴です。
対してBPOでは、主として自社にノウハウのない業務やノンコア業務を委託します。業務プロセスを一括して委託するため、部門・部署単位での業務範囲を委託するケースが多く、継続的な委託をすることがほとんどです。
経理のBPOサービスの業務内容
経理の仕事は、企業の経営活動で発生するお金の流れを管理することを目的としています。数字の入力や計算を行う単純作業が多く、外部に委託しやすい業務です。
経理業務を対象としたBPOサービスには、主に下記のようなものがあります。
- 伝票入力・領収書管理
- 仕分け・会計ソフトの入力
- 売掛金・買掛金の管理
- 請求書発行
- 税務申告書作成
- 決算報告書作成
など
伝票入力や売掛金・買掛金の管理、請求書発行は工数がかかる日常業務であり、社員にかかる負担も多くなります。電帳をはじめとして法令対応を含めてBPOサービスに委託することで、工数がかかる業務を経理のプロに任せられるようになり、社員の負担を軽減できるでしょう。
また、定められた期限までに提出する必要がある税務申告書や決算報告書の作成業務は、自社で行うと業務負荷が一部の社員に集中します。経理を専門とするBPOサービスに委託すれば、間接業務の繁忙期を作らず、税務申告書・決算報告書作成を設定した期日までに完了することが可能です。
2. BPOの市場規模が拡大している理由
画像引用元:矢野経済研究所
BPOサービスは企業からの需要が高く、BPOの市場規模は年々拡大しています。 矢野経済研究所の2023年のプレスリリースによると、2022年度の国内におけるBPO市場規模の推計は4兆7,020億9,000万円です。2021年度の4兆5,636億9,000万円と比べて、市場規模は約3%の拡大となっています。
(出典及び画像引用:矢野経済研究所「BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)市場に関する調査を実施(2023年)」/https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3397)
また、矢野経済研究所の2022年のプレスリリースでは、2021年度における経理BPOの市場規模は480億円という推計になっていました。2020年度と比べて約4.3%増となり、BPOの中でも経理BPOは市場規模の拡大が続いている傾向にあります。
(出典:市場調査とマーケティングの矢野経済研究所「BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)市場に関する調査を実施(2022年)」/https://web.archive.org/web/20230511183539/https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3127)
BPOの市場規模が拡大している背景には、2つの理由があります。
- 企業の人材不足
近年の日本は少子高齢化による労働力不足が社会問題となっており、企業は人材不足が深刻化しています。自社の事業成長を担う人材の採用が難しくなり、基幹業務に必要な人材の確保すら困難となる企業も多いでしょう。
BPOは人材不足による企業の課題を解決できるため、需要が高まっています。
- 働き方改革の影響
働き方改革が2019年から始まったことで、企業は社員の労働時間管理や年次休暇取得が義務付けられるようになりました。企業は人材不足の状況下で働き方改革へと対応するために、業務改革が求められている状況です。
BPOを活用することで、自社で対応が難しい業務を外部に委託できるようになります。結果、人材の有効活用働き方改革の実現につなげられます。
3. 経理業務でBPOサービスを利用する4つのメリット
BPOサービスの需要が高まっていることから分かるように、企業のBPO導入には多くのメリットがあります。中でも経理業務でBPOサービスを利用するメリットは、以下が挙げられます。
経理業務にかかるコストを削減できる
BPOサービスを利用すると経理業務を外部に委託できるようになり、経理業務にかかるコストを削減できます。
特にBPOサービスの利用で大きく削減できるコストが「人件費」です。経理は経費精算の処理や書類作成が基本的に人力であるため、多くの人件費がかかっています。特に税務申告書を作成する年度末や決算報告書を作成する期末は経理の繁忙期であり、経理業務の人件費も通常より多い時期です。BPOサービスで経理業務の一部を外部に委託できれば、繁忙期に備えた人材確保の必要がなくなり、人件費のコスト削減が可能です。人材・資金といった経営資源に生まれた余裕を、より重要性の高い業務に回せるようになるでしょう。
煩雑な作業をプロに任せられる
経理業務には、伝票入力や売掛金・買掛金管理といった数字の入力を伴う煩雑な作業が存在します。BPOサービスを利用すると、煩雑な作業をプロに任せられる点もメリットです。
手間のかかる単純作業は現場で働く社員への業務負荷が大きく、より重要性が高い仕事の業務効率低下を招きます。作業でミスをすれば、影響の確認や修正でより多くの時間が取られる可能性もあるでしょう。
経理業務のBPOサービスは経理の専門家が担当するため、手間のかかる単純作業も安心して任せられます。煩雑な作業を専門家に任せることで、自社の業務効率化が可能です。
業務がブラックボックス化しない
企業によっては経理業務を一部の経理担当者のみが担当していて、ほかの社員は経理業務とかかわらない場合があります。経理に精通している社員が在籍している間はよいものの、該当の社員が退職すると業務がブラックボックス化して、業務がうまく回せなくなるケースも少なくありません。
経理業務でBPOサービスを利用すると、経理業務のブラックボックス化を防げます。外部委託をするにあたって、業務プロセスをマニュアル化する作業などが必要になり、業務プロセスの振り返りや共有ができるためです。
また、経理業務に外部の目が入ることで、経理の不正防止にもつながります。不正防止のフレームワークの適用や定期的なBPO先での定期的な監査等でガバナンスの強化が可能です。
人材不足が解消される
現代は企業の人材不足が深刻化しており、経理業務を専門的に行う人材の確保は難しくなっています。主業務と経理業務を社員に兼任させる企業も存在するものの、分野が異なる業務の兼任は社員が不満を持ちやすく、退職を招く可能性もあるでしょう。
BPOサービスを利用すると、自社内で人材確保が難しい専門性の高い業務を外部委託でき、人材不足の解消につながる点がメリットです。自社で行う経理の業務量を軽減でき、退職につながる社員の不満も防止できます。
また、経理業務の人材不足が解消されると、採用コストや教育コストも軽減できます。浮いたコストをより重要性が高い業務の人材採用・育成に回せるようになり、企業全体の人材力強化が実現できるでしょう。
4. 経理業務でBPOサービスを利用する3つのデメリット
経理業務にBPOを導入することには多くのメリットがあるものの、気をつけるべき点もいくつかあります。
経理業務でのBPOサービスの活用を考えている企業は、以下で紹介する3つのデメリットを把握し、対策も考えておきましょう。
社内でノウハウを蓄積できない
経理業務でBPOサービスを利用すると、委託した業務は外部の業者が行うため社内でノウハウを蓄積できません。経理に関する知識・スキルを持った人材を社内で育成しにくくなる点がデメリットです。
経理のノウハウを持った人材が社内にいないと、将来的に経理業務を社内で行いたくなった場合に適切な人材配置ができません。
また、利用するBPOサービスを切り替える場合にも業務の引き継ぎが難しくなり、スムーズな利用サービスの切り替えができなくなる可能性があります。
BPOサービスを利用しつつ、社内で経理のノウハウを蓄積するには、経理業務を完全に丸投げしないことが大切です。委託先の業者からサポートを受ける形でノウハウを得たり、経理のマニュアルを社員と共有したりすると、BPOを利用しながら社内でのノウハウ蓄積も進められます。
委託に伴うコストがかかる
BPOサービスに経理業務を委託する際は、委託先の業者に支払う利用料金や自社の業務プロセスをマニュアル化させる手間といったコストが発生します。委託に伴う金銭的・時間的コストがかかる点も、BPOサービスのデメリットです。
また、BPOの利用にあたって社内の業務設計を再構築したり、業務フローに委託の業務引き継ぎを含めたりといったコストもかかります。いつの時点でBPOサービスを円滑に利用できるか、かかったコストを回収できるようになるかを把握する必要があるでしょう。委託に伴うコストを正確に把握するには、委託先候補の業者としっかりと相談することが大切です。BPOの利用について十分な話し合いができ、利用の流れや発生するコストを明確に説明できるサービスを選びましょう。
社内機密が流出する可能性がある
経理の情報には社内のお金の流れだけではなく、取引先企業の情報や社員の個人情報も含まれます。経理という社内の重要事項を外部に任せる関係上、経理でのBPOサービスの利用は情報漏洩リスクに注意しなければなりません。
社内機密の流出を防ぐには、下記のような対策を実施しましょう。
- 委託先にセキュリティ体制が整備されているかを確認する
- 委託先の業者と守秘義務契約を締結する
- Pマークなど公的な認証を受けているかどうかを確認する
など
プライバシーマークや国際セキュリティ規格認証を取得した業者を選び、守秘義務契約を締結すると、機密情報の漏洩リスクを減らしてBPOサービスを利用できます。
5. 経理業務にBPOサービスを導入するステップ
経理業務にBPOサービスを導入する流れを、5つのステップに分けて解説します。
1,導入目的を考え、自社にとってBPOが最適なのか判断する
まずはBPOサービスを導入する目的を考えましょう。自社がどのような課題を抱えており、BPOサービスが課題解決につながるかを検討します。例を挙げると、人材不足が課題の場合は、人材不足の解消が図れるBPOサービスの導入が最適であると判断できます。 また、委託する業務範囲・期間・予算の決定や、業務マニュアルの作成も必要です。
2,委託先を選定する
BPOサービスの導入目的に合わせて、委託先の業者を選定します。経理業務でのBPOサービスの導入であれば、経理業務を専門的に扱えるBPOサービスを選ぶことが重要です。 委託先候補の業者をいくつかリストアップし、業務の専門性や実績、費用感にもとづいて自社に合う委託先を決定します。この場合可能であるのであればRFP(Request for Proposal)で業務を明確にして入札をを行います。
3,業者と契約交渉をする
選定した委託先の業者と契約交渉をします。契約交渉の内容は、委託する業務範囲・期間・品質基準や価格などです。 契約内容には委託先業者との守秘義務契約や、委託契約解除の条件などが含まれています。契約内容に問題がないことを確認した上で、契約を締結しましょう。
4,業者と業務の流れについてすり合わせる
契約締結後は、業者と業務移行の流れや詳細についてすり合わせを行います。作成した業務マニュアルを共有し、スケジュールを作成して業務移行を進めます。 業者側への業務の指導・サポートや、要望の伝達も必要です。
5,BPO業務を実施してもらう
業務移行の準備が完了した後は、委託先の業者によるBPO業務がスタートします。業者から定期的に提出される報告書を確認し、運用状況の検証・改善をしましょう。
BPO業務のパフォーマンス監視と改善をすることで、設定した導入目的を達成できるBPOサービスの提供が期待できます。
6. 経理のBPOサービスを提供する業者の選び方
BPOのニーズは年々高まっており、BPOサービスを提供している業者は数多く存在します。企業が自社の経理業務を任せる業者を探す際は、以下で紹介する選び方のポイントに注意することが大切です。
十分な実績があるか
BPOサービス提供業者の中には新規参入業者が多く、中には実績がほとんどない新興業者も存在します。実績がない業者は業務のノウハウが蓄積されていなかったり、企業との連携がうまくできなかったりする可能性があるため、業者に十分な実績があるかをチェックしましょう。
業者の実績をチェックする際は、単なる取引件数のみではなく、実績の中身も見ることが重要です。自社と同業種・同規模の企業でBPOサービスを提供した経験があれば、自社が委託したい業務範囲にも対応できる可能性が高くなります。 また、現在までにどのような課題をBPOで解決してきたかについても、担当者に尋ねることがおすすめです。企業の課題と向き合う業者の姿勢や柔軟な対応ができるかを知ることで、自社の課題解決につながる業者であるかが判断できるでしょう。
専門性があるか
BPOサービスは多岐にわたる領域で提供されており、業者によって得意とする分野・専門性には違いがあります。経理業務に対応できると謳う業者であっても、専門性があるかをチェックすることが大切です。
特に経理業務の中には、税理士などの有資格者でなければ代行できない業務があるため、資格保有者がいるかどうかでBPOができる業務範囲が変わります。「税務申告書作成」のように特定資格が必要な業務をBPOで委託したい場合は、有資格者が在籍する業者を選ばなければなりません。
BPOサービスの提供業者に税理士などの有資格者が在籍しているかは、業者のホームページやサービス紹介ページで確認できます。委託の相談時にも、有資格者が在籍しているかを担当者に確認してください。
費用対効果は高いか
BPOサービス業者を選ぶ基準の1つに「費用感」があるものの、単に費用が安いかどうかで決めることは得策ではありません。費用が安くお得に見えても、業務内容の品質が高くなければ、経理業務を安心して任せられないためです。
経理のBPOサービス提供業者を選ぶ際は、BPOサービスの費用対効果が高いかをチェックしましょう。費用対効果が高い業者を選ぶことで、正確な経理業務の実施が期待できて、企業の課題解決も実現できます。
費用対効果の高さを見るには、業者との契約交渉でしっかりと話し合いをすることが大切です。BPOの事前見積りを請求したり、トライアルで業務品質を確認したりすると、業者の費用対効果が高いかどうかを判断できます。
まとめ
経理業務をBPOサービス業者に委託すると、ノンコア業務をプロに任せられ、業務のコスト削減、人材不足の解消や、業務の可視化による不正の防止などのメリットがあります。一方でBPOサービスを依頼する際に、適切な業者を選ばなければ経理業務のノウハウを社内に蓄積できないだけでなく、コストの増加や機密流出などにつながるでしょう。
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