知っておくべき一人経理のリスク!改善方法や改善した場合の経営的メリットを解説

多くの中小企業で採用されている一人経理の体制は、固定費の効率が良いように思えますが、企業経営に大きな影響を与える可能性があります。

経理的なリスクを軽減する場合、一人経理から脱するか、一人経理のままで改善を行うかどちらかの対策を打ち出す必要があります。

ここでは、一人経理体制を改善することで得られる経営的効果から、具体的な6つのリスクとその対策を取り上げます。

経理業務の効率化と社外・社内の信頼を高めることを目指す企業の皆様にとって、必読の内容となっています。経理体制を見直すきっかけを見つけていただければ幸いです。

一人経理とは

一人経理とは、企業の経理業務全般を1人で担当する体制のことを指します。主に中小企業や新興企業で採用されるこの体制は、コスト削減や意思決定の迅速化といったメリットがある一方で、様々な課題も抱えています。

一人経理の特徴は以下の通りです。

  1. 幅広い業務範囲:日々の仕訳から決算、税務申告まで全般を担当
  2. 一人に対して専門性・知識が要求される
  3. 責任の集中:財務管理や資金繰りなど重要な業務を担う
  4. 時間的リソースとの戦い:多様な業務をこなすため、時間との戦い
  5. 相談相手が少ない
  6. 資金繰り表や会計管理に属人的なクセがある

一人経理の役割と負担は、組織の規模、業種、取引の複雑さによって大きく変動します。効率的な経営を維持するには、組織の課題や成長に合わせた部門の見直しや、経理担当者に対するサポート体制の構築が求められます。

一人経理を改善して得られる経営的効果

一人経理体制を改善することで、企業は以下のような経営的効果を得ることができます

  1. リスクマネジメント力の強化
    • 不正・横領リスクの低減
    • 財務報告の信頼性向上
    • コンプライアンスの強化
  2. 業務効率・生産性の改善
    • 専門業務の分担による生産性の向上
    • 経理担当者の負担軽減
  3. 経営判断の質の向上
    • 正確でタイムリーな財務分析
    • 危機予測が鋭くなる
    • 経営計画の立案がしやすくなる
  4. 組織力・事業力の強化
    • 経理のスキルが組織内で共有される
    • キャリアパス形成
    • チームワークの醸成
    • 知識・ノウハウの蓄積
    • 業務の属人化を解消
  5. 新規成長戦略にも対応できる
    • 精度が高い財務情報は企業の成長の基礎
    • 新規事業展開やM&Aに対応できる
    • グローバル展開に適した体制構築

経営効果は企業の規模や業種によって異なりますが、一人経理体制の改善は、財務健全性、生産性、競争力を大きく向上させる可能性があります。

一人経理の6つの経理的リスク

一人経理体制には効率性や迅速な意思決定というメリットがある一方で、主に以下の2つの重大なリスクが存在します。

  • 不正・横領
  • 経理的なミスを見逃す
  • 正しい会計方法で経営を把握できない
  • 退職・休職のリスク
  • 属人化は免れない
  • 引継ぎができない

これら1つずつ解説していきます。

不正・横領

経理担当者の不正・横領は度々ニュースになっています。建設会社の経理担当者が1億2,150万円を払い戻しや自分の口座に振込したことで逮捕されています。

参考:「全額を投資」1億2150万円横領疑い、元経理担当を逮捕

一人経理の場合、チェック機能や監視が弱く、権限も集中しているので不正が簡単に出来てしまいます。経理担当者を信用するしか対策がない企業もたくさんあります。

ミスを見逃してしまう

一人経理担当者が人為的なミスを起こしてしまうことで、重大の問題に発展する可能性はあります。取引先への支払いや請求にミスが生じてしまうと、信用を落とすことに繋がります。

借入や税金の支払いに遅延が生じると、資金調達のリスクや利払い費用、遅延損害金が増加するなど重大な損失に進展する可能性もあります。

 正しい会計方法で経営を把握できない

一人経理の場合、経理担当者の経理・会計・税務の知識に依存することになります。経理担当者の知識が不足していると、仕分けに誤りが生じ、試算表や月次決算が誤ったものになるかも知れません。

例えば、資産及び原価償却の対象か、経費の対象か判断するには、税務の知識も必要とされますが、資産として計上するものを経費に計上した場合、試算表が正しいものになりません。

退職・休職のリスク

一人経理の担当者が退職する場合、経理業務は中断されます。役員や幹部社員が中断しているときのみ代理で行うにしても、その他の業務が止まることになります。

新しい社員がタイミングよく入社して引継ぎを行うにしても、前任の経理担当者独自の方法で経理処理や仕分けをしていた場合、それを引き継ぐのは簡単ではないでしょう。

マニュアルがないことや引継ぎの体制が整っていないと、新任の経理担当は会社に対する不信感を持ってしまい、最悪の場合、すぐに退職するという事もあり得ます。

属人化を免れることができない

一人経理の体制は、経理担当者の属人化を免れることはできません。業務改善や生産性の改善で新しいシステムを導入をしようにも、経理担当者のスキルアップも同時に行うことになるかも知れません。

また非効率な業務プロセスが潜んでいる場合でも、非効率な業務プロセスを発見しにくくもなります。

経理担当者は「このやり方を変えたくない」と主張するかも知れません。

これらのリスクを認識した上で、一人経理を辞めて経理部門に人材を増やすか、一人経理体制を保ったまま改善を行うかを検討しましょう。経営者は自社の状況に応じた経理部門の構築をすることが重要です。

一人経理の状態を改善する方法

一人経理を改善するための5つの主要な戦略を紹介します。以下が改善する方法の効果や改善時間、導入の難しさを表で纏めたものです。

対策内容費用改善時間効果導入の難しさ
経理アウトソーシング5~20万/月すぐに改善可能高い低い
経理部門に増員20~50万/月すぐに改善可能高い中程度
管理会計を取り入れる費用はかからない教育と体制作りの時間がかかる負担が減る程度高い
クラウドシステム・数千円~数万円/月使いこなすまで1か月間はかかる中程度低い
生成AIを活用する数千円/月すぐに改善可能中程度中程度
RPAを導入する数万円/月初期10~100万円開発や導入に1か月~3か月はかかる中程度高い

まずは導入のハードルと費用の低さから選ぶのも良いですし、どれか1つから導入して少しずつ改善していくのも良いです。

1つずつ詳しく解説していきまう。

経理アウトソーシングを行う

経理アウトソーシングサービスを提供する企業に業務を委託することで、負担の軽減や専門性の補完、システムの構築を行うことができます。

  • メリット:専門知識の活用、リスク分散、雇用より安い
  • 導入ポイント:
    1. アウトソーシング業務を明確化する
    2. 信頼できるアウトソーシング企業を選定する
    3. 社内担当者との役割分担を明確にする

新たに社員を雇用することにリスク・負担を感じている場合は、経理アウトソーシングはとても有効でしょう。

サービスの提供は安定性があり、欠勤や有給連休などもありません。

経理部門の担当者を増やす

新たな人材を採用し、業務分散と相互チェック機能を構築することができるのが最大のメリットです。また、経理担当者の心理的な負担も軽減することができます。

  • メリット:業務負担軽減、ミス防止、知識・スキル共有
  • 導入ポイント:
    1. 必要なスキルセットの明確化
    2. 人材採用の方法
    3. 役割分担と業務フロー再設計

「相談しながら仕事をしたい」という人も多いので、同じ会社のメンバー同士というだけでも心の負担は軽減されるでしょう。

管理会計を取り入れる

経営判断に役立つ財務情報提供のため管理会計を会社全体に導入し、経理担当者以外の役員・社員も会計ソフトウェアを操作したり、予算管理にコミットメントさせることで、経理担当者の負担は減るでしょう。

  • メリット:経営判断向上、部門内で予算管理、経理・会計報告の簡略化
  • 導入ポイント:
    1. 管理会計ソフトウェア導入
    2. 重要業績評価指標(KPI)設定
    3. 経営会議の資料も部門責任者が作成

管理会計を導入するには教育を行う必要があるため、中長期的な業務改善となります。

クラウドシステムを導入する

経理・会計のクラウドシステムは既に広がりを見せているものの、導入していない場合は、できる限り導入することをおすすめします。経営者・税理士・会計士との情報共有をリアルタイムに行うことができます。また、近年増加しているテレワークを行うにはクラウドシステムの導入をすべきでしょう。

メリット:

  • リアルタイムな財務状況の把握:即時データ反映による最新情報の確認
  • 経営者・税理士・会計士との情報共有をリアルタイムで可視化できる
  • 場所を選ばない業務:テレワークやフレックスタイム制の導入が容易に
  • 自動化機能:仕訳の自動生成や銀行取引の自動取り込み
  • セキュリティ向上:自動バックアップと専門業者による高度なセキュリティ対策
  • スケーラビリティ:企業の成長に合わせた機能の追加・拡張が可能

導入ポイント:

  1. 自社の業務に最適なシステムの選定
  2. 既存システムからのデータ移行計画の策定
  3. 経理担当者の教育の実施
  4. WEB環境の整備

業務フローに生成AIを取り入れる

業務フローに生成AIを取り入れることで生産性は飛躍的に上がります。生成AIは財務分析も行ってくれますし、GASやpythonと組み合わせることで、スプレットシートに理想の形でアウトプットすることも可能です。最近ではワークフローを構築できるAIや、チャットボットを簡単に作れるAIもあります。

  • メリット:作業時間の大幅、高精度分析とアウトプット
  • 導入ポイント:
    1. 適切なAIツール選定
    2. 生成AIを使いこなすスキルトレーニング
    3. AIの進化を追い続ける必要性

チャットボットなどは簡単に作れるため、社内の経理に関わる質問は全てチャットボットが回答するということも可能です。

生成AIは非常に便利ですが、良くも悪くも進化が早く、アップデートの度にそれに合わせたカスタマイズや見直しを行う必要があります。

RPAを導入する

RPAとは「Robotic Process Automation」の略語で、パソコンの事務作業を自動化できるソフトウェアロボットのことです。 RPAは独自開発する場合と、既存のシステムを導入する2つのパターンがあります。

メリット

  • 作業時間の大幅削減:人間が行うと数時間かかる作業を数分で完了
  • ヒューマンエラーの削減:入力・計算ミスがなくなる
  • ワークフローを自動で動かせる
  • 24時間365日稼働可能:夜間や休日も含めた継続的な処理が可能
  • 長期的なコスト削減:人件費の抑制につながる

導入ポイント:

  1. 自動化対象業務の選定(データ入力、照合作業、レポート作成など)
  2. 業務プロセスの標準化と文書化
  3. 段階的な導入:小規模な業務から始め、徐々に範囲を拡大
  4. 定期的なメンテナンスと更新の実施

ワークフローの自社開発はコストが大幅にかかり、アップグレードの度にコストがかかってしまいます。ただし導入した場合は自社に合ったRPAが作業を自動でこなすため、大幅な業務の軽減につながります。

RPAはサブスクサービスも多数あり、自社の業務に合ったRPAサービスを導入できれば、多大の開発ジコストやアップデートコストは削減できます。

一人経理の担当者の悩み4選

一人経理の担当者は多くの責任を負いながら孤独な環境で業務しており、様々な悩みに直面しています。以下に主な4つの悩みとその対策を紹介します。

連休の有給が取れない

一人経理の場合、連休を取ると経理部門が止まってしまいます。そのため、経理担当者は責任感で「休んではならない」と考える傾向があります。

また企業によっては会社から「有給は連休にしないで分散させてほしい」と依頼するケースもあるでしょう。

連休が取れないと、モチベーションの低下や心身の疲労、ワークライフバランスが崩れるなどがあり、退職のリスクも高くなります。

相談相手が乏しい

一人経理の担当者の多くは「相談相手がいない」という悩みを感じているでしょう。

仕事は相談しながら進めていくことで、ミスを減らしつつ、専門知識を深め、成長していくことができます。相談相手が乏しいという課題は、経理担当者の成長にも関係してしまいます。

責任が重くてプレッシャーを感じる

一人経理の担当者は経理業務にミスが許されないことを理解しており、かつ経営者と直接やり取りをする機会も多いため、責任が重くのしかかり、プレッシャーを強く感じてしまうでしょう。

一人経理の仕事は広範囲ですが、1つ1つの仕事は慎重に行わないとなりません。特に繁忙期はミスも増えることから、繁忙期が訪れるとより強いプレッシャーを感じ、メンタルヘルスに悪影響を及ぼします。

孤立を感じてしまう

中小企業の一人経理の担当者は、主に経営者と接することが多いため、他の部門のように従業員同士のコミュニケーションが少ない傾向にあります。

また、会社の資金・資産を扱う業務のため、他の部門や従業員から離れた場所に配置されるケースもよくあることです。

これらの悩みは、一人経理担当者の生産性やメンタルヘルスに大きな影響を与えます。

一人経理を続ける場合の人事評価・支援の方法

一人経理体制を継続する場合は、評価方法や支援を手厚くすることをおすすめします。リスクを最小限に抑えつつ、経理機能を最大限に活用できます。

一人経理の適切な評価方法

経理担当者に対する評価制度を見直すことで、経理担当者のモチベーション向上に繋がる可能性があります。

下記が経理担当者の評価項目の一例です。

  • 定量的指標の設定:月次決算締め日遵守率、経費精算処理時間など
  • 定性的評価:財務情報提供質、他部門とのコミュニケーション能力など
  • 360度評価:上司、同僚、取引先からのフィードバック収集
  • 自己評価とのギャップ分析

一人経理のスキルアップ支援

経理担当者の専門的な知識・スキルアップ向上の支援を行いましょう。

  • 外部セミナー、オンライン学習
  •  資格取得支援:受験費用補助、報奨金制度
  • メンター制度(外部サービス利用)
  • IT技術習得支援

アウトソーシングの戦略的活用

経理業務をアウトソーシングすることで、一人経理を継続できる可能性が高まります。

アウトソーシングの方法も様々で、一部の簡単な業務やルーティンワークのみアウトソーシングすることもで可能です。

また、アウトソーシング先からノウハウも吸収できるかも知れません。

雇用をせず一人経理を改善する経理アウトソーシング

経理アウトソーシングは、新たな雇用を行わずに一人経理体制を改善する効果的な方法です。

また、導入まで早くて1か月程度でスタートができ、アウトソーシング先がノウハウを持っているため、すぐに経理部門を強化することができ、経理担当者の悩みも減ることでしょう。

1. アウトソーシングができる範囲

   – 基本的な記帳業務

   – 給与計算・社会保険手続き

   – 月次決算・年次決算サポート

   – 税務申告書作成

2. 導入ステップ

   – 現状分析・目標設定

   – 業者選定

   – 段階的導入

   – 効果測定

3. 注意点

   – 情報セキュリティの課題

   – 社内担当者との役割分担を明確化

   – 密なコミュニケーションは取れない

新規で従業員を雇用するより、採用コストもかからず、研修や教育も不要です。

従業員を雇用する前に、経理アウトソーシングからスタートし、徐々に従業員の採用にシフトするというのも一つの手段となります。

まとめ

一人経理体制には多くの課題があるため、改善することをおすすめします。しかし、新規雇用で改善することに抵抗がある経営者の方も多いと思います。

選択肢は大きく分けて4つです。

  • アウトソーシングを依頼する
  • クラウド、AI、RPAなどで業務効率化する
  • 経理担当者の評価とスキルアップ支援を行う
  • 新規従業員を雇用する

この4つの中から自社に合った対策を講じ、一人経理を改善することによる経営的なメリットを手に入れましょう。